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中央環境審議会が検討を開始した「長期低炭素ビジョン」に対する提案

グリーン連合は、環境省の中央環境審議会が検討を開始した「長期低炭素ビジョン」に対して以下の提案を2016年9月30日に環境省に対して提出しました。

グリーン連合「長期低炭素ビジョン」に対する提案(PDF)

中央環境審議会が検討を開始した「長期低炭素ビジョン」に対する提案

2016年9月30日
「グリーン連合」共同代表
藤村コノエ、杦本育生、中下裕子

1.私たちの基本的認識 

(1) 人類社会が気候変動問題に本格的に取り組み、国連気候変動枠組条約を締結して23年。そして昨年末に190を超す国の代表の合意で採択された「パリ協定」は、準備開始から少なくとも6年という長い時間をかけ、IPCCに集った科学者や専門家の気候変動に関する最新最良の知見を踏まえ、厳しい交渉を経て、画期的な内容で合意された。このパリ協定が発効し確実に実施されれば、悪化の一途を辿ってきた気候変動の克服に希望の兆しが見えてくると、私たちは、この歴史的合意を歓迎している。

(2) 数ある合意点のうち、「長期低炭素ビジョン」を検討するにあたって、特に重要と考える点は、①産業革命前からの世界の平均気温の上昇を、2℃を充分に下回るレベルに抑え、1.5℃未満に収めるよう努力することが合意された点、②世界全体でできるだけ早い時期に温室効果ガス排出量の増加を止め、今世紀後半には排出量と吸収量とを均衡させ「実質ゼロ」を目指すとした点、である。なぜなら、パリ協定に示されたメッセージは、産業革命以降、エネルギー源として化石燃料を大量に消費し物質的に豊かで便利な経済社会を築いてきた過去2世紀余に及ぶ都市化・工業化された文明を大転換し、低エネルギー消費社会を実現するとともに、温室効果ガスをほとんど排出しない持続可能な再生可能エネルギーへとエネルギー源をシフトすること、すなわち、「脱炭素」社会の実現に社会が大きく舵を切ることを意味するからである。

(3) 日本がパリ協定に盛り込まれた画期的な内容を確実に実施し、その実現に着実に貢献するには、過去25年に及ぶ気候変動(地球温暖化)に係る従来の体制や政策を根本から見直す必要がある。なぜなら、これまでも、企業、市民も含め政府や自治体は数々の地球温暖化対策を講じてきたが、これまでの原発への依存や再生可能エネルギー導入の遅れから、結果的に温室効果ガスの排出総量は、年により多少の増減はあるものの、日本として基準年とすべき1990年レベルから低減しておらず、むしろ増加している(2014年度は7%増だが、前年比では原発稼働ゼロでも3%減)。COP21に向けて国連に提出した約束草案では、2030年度に2013年比26%削減(1990年度比で18%削減)というとても不十分な削減目標になっている。さらにこの不十分な削減目標の達成さえ危うくする石炭火力発電所の新規導入が電力自由化の中で進められようとしている。この点で日本は他の先進国と比べて地球温暖化政策の面で恥ずべき状況にあり、気候変動の時代にあって、政治・経済・社会を含む日本社会全体としての変革への取組みの立ち遅れを露呈するものと私たちは考えている。

(4) これまでの日本政府の気候変動に対する地球温暖化政策は、国民や企業の自主的な行動を促進する「対策」や技術の革新等が中心であった。しかし、こうした政策では、パリ協定が求める社会の実現は到底不可能であり、明確な中長期的目標やロードマップを伴った産業構造の転換、グリーン経済への移行といった経済システムの見直し、脱原発を前提とした脱化石エネルギー社会の構築、都市計画を含む社会システムそのものの見直しが不可避である。また、気候変動の時代を乗り越え、希望ある人類社会を築いていく上で何が最も重要かといった価値の転換やあらゆる層での持続可能な社会像の形成、それを促す学校教育や社会教育を立て直すことも不可欠である。さらに、これまではエネルギーや環境問題に積極的に関与してこなかった層も含む社会の全てのステークホルダーの参加が必要であると私たちは考えている。

(5) さらに昨年9月の国連サミットにおいて、貧困、飢餓、健康、教育、生産・消費などの17事項を含む「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択され、「持続可能な開発目標(SDGs)」が決定された。この国際的な目標は日本にとっても極めて重要な方向性を包含しており、長期的な気候変動に対応する政策を策定する場合にも、これら目標の内容も十分に斟酌する必要があると私たちは考えている。

2.長期低炭素ビジョンの実現において不可欠な要素 

(1) 気候変動への対応の中で温室効果ガスの削減対策については、これまでも環境NPO/NGOを含む国内外の組織や研究者・有識者から様々な提案がなされて、それらが現実に効果を上げている国や地域も増えてきている。しかし、我が国では、主としてエネルギー多消費型の産業界の意向を強く反映したことにより、最も効果的な対策と考えられる環境税や排出量取引など炭素への価格付(カーボンプライシング)や総量排出規制が、東京都などで部分的に実施されているものの、ほとんど実施されていない。

しかし、先進国であり温室効果ガス削減の技術力に大きなポテンシャルを有する日本の責任から見ても、また、我が国の社会・経済全体の中長期的な健全な発展から考えても、カーボンプライシングや総量排出規制など着実に効果のある温室効果ガスの削減策を各部門で実施すべきである。いまこそ経済・社会の発展と温室効果ガスの排出量のデカップリングを実現する包括的な政策が求められる。

(2) 特に、長期目標及び気候変動政策と表裏一体である「エネルギー基本計画」や「2030年の電源構成」の見直しが急務である。

COP21での「パリ協定」合意前に、経産省が2030年度のエネルギー需要やエネルギーミックスを決定し、それに整合する形で、政府は温室効果ガスの削減目標(2030年13年比26%削減)を約束草案として設定したが、「パリ協定」合意後の本年5月に決定された「地球温暖化対策計画」においても、基本的に合意前と同じレベルの対策に留まっている。

気候変動に伴う世界での異常気象の激化のスピード及びその規模と、「パリ協定」に明記された「今世紀後半には実質ゼロを目指す」責務を考えると、「2050年80%削減」は最低でも達成すべき長期目標として掲げ、そこに向かう経路として中期根目標も速やかに見直し、それに沿ったエネルギーに関する中長期的な目標を設定し、実現するロードマップを策定すべきである。

具体的には、温室効果ガスの削減目標としては、2030年度に1990年度比で少なくとも40%~50%削減、2050年に1990年比80%削減とし、その後の「排出ゼロ」への道筋を描くべきである。また石炭火力は既存の発電所を廃炉にする道筋を作り、現在進められている新規建設計画を止めるべきである。そうしなければ2050年80%削減の達成は極めて困難である。

エネルギー需給の目標の設定については、2030年度には原発ゼロを前提として、長期的には再生可能エネルギー100%の社会を目指し、短期的には徹底した省エネに加え、そこまでのつなぎとしてガスコンバインサイクルの火力発電所などCO2排出量の少ない電源を活用し、2030年40~50%のCO2削減と再生可能エネルギー50%以上を目指すべきである。さらに全ての部門で最終エネルギー需要を基準とした2020年、2030年、2040年、2050年のエネルギー供給(エネルギーミックス)の目標を設定し、エネルギー需給のロードマップを策定すべきである。

(3) さらに、私たちは、中長期的な観点から我が国の気候変動政策を実施するにあたり、当面の間、次の要素が不可欠であると考える。

気候変動の重大な脅威は差し迫っている。気候変動政策の検討と実施には、時間的猶予がほとんどないことを想起していただきたい。

①経済的手法として

・総量排出規制を含む排出量取引制度(キャップ&トレードC&T)の導入
※既にC&Tは世界で4兆円規模にまで拡大

・現行の地球温暖化対策税の大幅強化ないしは有効な炭素税(仮称)の新規創設  ※税収は社会的課題の解決(特に奨学金への活用など次世代の負担軽減策への活用等)や、率先して脱炭素化に取り組む企業の減税措置などに活用

・企業の環境投資を促進するグリーンファンドの創設や環境金融の支援

・再生可能エネルギーによる発電に対する固定価格買取(FIT)制度の着実な継続と適切な改善(調達価格等の価格・区分設定)

・電力システム改革における再生可能エネルギー導入重視(優先接続、優先給電などの実現)および発送電分離・電力市場の拡充

・再生可能エネルギー熱供給の支援(供給インフラ整備、環境税、固定価格買取制度など)

・電気、ガス、燃料など消費エネルギーのグリーン化(省エネ、再生可能エネルギー比率向上など)促進(100%再生可能エネルギーを目指す)

②規制的手法として

・大気汚染防止法の改正ないしは温室効果ガス排出規制法の導入により、火力発電所、製鉄所等の固定発生源のみならず、自動車、船舶、航空機等の移動発生源からのCO2の排出を規制するとともに、CO2以外の温室効果ガスの規制を導入する
※カリフォルニア州大気資源局は2018年モデルからHVをZEVから外すことを決定

・建築物に対する省エネ法(省エネ基準)、化石燃料に対する省エネ法(エネルギー効率)およびエネルギー利用高度化法等の強化と拡充(再生可能エネルギーへの転換、熱電併給システムの導入促進など)

③森林管理・都市環境緑化の促進

・環境税や森林環境税を活用した、地域の森林管理および資源活用、CO2の吸収源対策、生物多様性の確保などに活用

④自治体・都市政策

・自治体の地域政策における気候変動政策およびエネルギー政策の基本計画(マスタープラン)策定

・まちづくりにおける都市のコンパクト化と地域の資源・エネルギー循環を考慮したゾーニングの実施

・都市内交通のグリーン化するために、都市内交通をLRT、自転車、EVのバス等に転換するなど地域の状況に応じた都市内グリーン公共交通システムの構築
※高齢化、過疎化対策との連携

⑤市民社会の育成・強化

・持続可能な社会構築に向けた環境教育の充実(公平性や経済・社会的視点強化)

・次世代を担う青少年の環境問題への活動を促し支援する仕組みづくり

・市民の取組みを広げる環境NPO/NGO等の育成・支援の拡充
※①炭素税等の活用

⑥情報公開の強化

・インターネット・ソーシャルメディアやマスメディアでの情報公開の強化

・地方公共団体、NPO、業界団体等を通じて、広報、シンポジウム、ワークショップ等のあらゆる機会を活用して、気候変動やエネルギーに関する最新の情報をわかりやすく提供する

⑦国際協力の強化

・「高効率石炭火力発電」などの化石燃料依存の技術ではなく、また原発など人類に大きなツケを残す技術ではなく、脱炭素社会構築に向けた日本の有する技術や情報を、途上国を含む国際社会に提供するとともに、国際社会が有する効果的な経験等を我が国も共有しながら、国際社会全体の気候変動への対応力を向上するよう貢献する

3.長期低炭素ビジョンの実現に実質的な市民参加を 

(1) 長期低炭素ビジョンを実現する脱炭素社会に向けては、その実現のための政策形成および実施プロセスにおいて、国や地方自治体などの公共セクターや企業などの民間セクターだけではなく、様々な私たちNPO/NGOも含めた、実質的な市民の参加が不可欠である。しかし、現状では、政策形成プロセスにおいても例えば、中央環境審議会とその下にある部会、委員会等への市民参加は限定されている。そのことが、オーフス条約等の下で市民参加を進め実効性ある環境政策の形成と実施を進めている欧州などと比較して、結果的にわが国の環境政策の停滞や後退を招いているように思われる。

(2) こうした偏った政策形成プロセスでは、国民各層からの意見を広く聞くという審議会などでの政策決定の趣旨に反するとともに、本来あるべき社会や環境に対する公平・公正な判断は期待できず、効果的な脱炭素社会に向けた長期ビジョン・戦略の策定はもとより実施段階においても国民各層の協力は得にくいものと考えられる。

(3) 今後、長期低炭素ビジョンの実現に係る政策形成プロセスにおいては、公平・公正の観点、政策の実効性の観点、さらに市民社会育成の観点から、環境NPO/NGOの参加枠を定めるなど、各課題に強い関心と専門性を有する市民セクターの参加を強く要望する。また、パブリックコメントやヒアリングにとどまらない、NPO/NGOをはじめとする国民各層や自治体からの意見を聴く機会を幅広く丁寧に確保すべきである。そうすることで、真に有効な環境政策の形成と実施が図れると私たちは確信する。

(以上)

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