勉強会・金子勝さん講演会
「大量生産・大量消費の経済から新しい経済へ」
この度、グリーン連合では慶応大学教授の経済学者金子勝さんをお招きし、勉強会を開催しました。持続可能な社会を構築していくためには、今の社会経済システムにおける大量生産・大量消費社会や経済最優先の経済システムを見直す必要があります。今の経済システムの問題を明らかにし、今度どう考えていくべきなのか、議論しました。
講師:金子勝さん(慶応大学教授)
日時:9月26日(火)18:15~20-:15
場所:文京区区民センター2A
参加費:無料
*本勉強会は、平成29年度独立行政法人環境再生保全機構地球環境基金の助成を受けて開催しました。
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講演要旨
「大量生産・大量消費の経済から新しい経済へ-脱原発こそが新しい経済を創る-」
環境問題に取り組んでおられる皆さんは、「経済よりも環境の方が大事」という問題の立て方をするが、そうすると、「そうは言っても経済はどうするの?」とか、「環境保護ばかりでは経済は成り立たない」という反論が返ってきてしまう。そうではなくて、環境や安全の価値を入れた新たな経済システムを確立することこそが、閉塞状況にある日本全体を救うことになる。こうした問題の立て方が、福島原発事故を経た今まさに求められていると思う。
エネルギー基本計画では、原発は発電コストが一番安いとされ、ベースロード電源とされているが、このコスト計算にはさまざまなカラクリがあり、実際には原発は高コストの衰退産業である。まず、キロワット時あたりの原発のコストは10.1円とされているが、これには事故が起きた場合の対策費用が含まれていない。大島堅一立命館大学教授が公表した試算(2015年4月)によれば、43基の原発全てを再稼働させ、途中で廃炉にすることなく40年間で閉じるという甘い前提でも、福島原発事故対策費用として11.1兆円を乗せただけで、発電単価は11.4円になる。対策費用を21.5兆円にすれば、15円をはるかに上回る。
また、経産省は、新規制基準に基づく安全投資によって事故確率が減った(「40年に1回」から「80年に1回」へ)として事故費用を減らして試算することにより、コストを低く見せている。
拙著『原発は火力より高い』(岩波ブックレット)を読んでもらえばわかるように、実は原発は停止しているだけで1.2兆円の赤字を出す不良債権なのである。一旦原発が新設されると、ずっと稼働状態を続けないとコストは低くならないようなモデルプラント方式で試算されている。これが、各社が再稼働を急ぐ理由なのである。ちなみに、規制委員会による安全審査の順番は、電力会社の経営状態の逼迫度順(つまり、原発依存度の高い順)となっている。
- 世界の衰退産業(原発)を引き受けて沈む、日本の重電機メーカー
ところが、安倍政権(第1次)は、「原発ルネッサンス」と称して、財界に働きかけ、世界の衰退産業を引き受けるという愚策に打って出たのである。
まず、2006年、東芝がウェスティングハウス社を約6600億円で買収した。うち、4000億円が「のれん代」といわれている。その背後には原発輸出による経済再生を目論む政府(経産省)の強い後押しがあった。しかし、この取引こそが今日の東芝の粉飾問題と破綻の危機につながっていったのである(参考:大西康之著『東芝 原子力敗戦』(文藝春秋、2017年6月30日)。
三菱重工も、事実上破綻している日本原燃と組んで、瀕死状態の仏国営原子力企業のアレバに投資した。これも経産省が強く促したもの。日立も、英国のコスト高の原発建設を受注したが、政策投資銀行やJBICなどから1兆円の金融支援を受け、建設費融資には政府保証が付けられている。
一方、GEやシーメンスは日本のメーカーとは異なる方法を取っている。GEは原子炉部門を日立に譲り、現在別部門を中心に事業展開している。シーメンスは原発から撤退し、スマートグリッドや再エネコントロールシステムなどの事業に切り替えている。
しかしながら、日本の重電機産業は、国策としての原子力ビジネスに振り回されて、再エネやスマートグリッドなどの新分野に入り込めていない。このままでは衰退の一途をたどりかねない。
こうした国策としての原発産業の救済は、90年代の銀行の不良債権問題を彷彿とさせる。多額の公的資金を小出しに投入して金融機関を救済しようとしたが、その結果、日本経済は「失われた20年」の長期停滞に陥り、今も脱出できていない。大胆な原発=不良債権の切り離しと電力大改革なしに、衰退産業にただ公的資金を投入しても、技術転換や新たな産業分野への参入が遅れるだけで、結局、衰退は止められない。
既述のとおり、原発問題は「不良債権問題」に他ならず、今求められているのは「電力大改革」なのだが、それを原発が阻害している。「原発がないと日本経済がもたない」のではなく、「原発がある限り、日本の重電機産業は沈み、日本経済は死んでいく」のである。
もはや問題は重電機産業だけではない。危機は自動車産業にも及んでいる。世界の国々は、今、ガソリン・ディーゼル車から電気自動車へと大きく転換しようとしている。ところが、日本は、燃料電池車にこだわって、電気自動車への転換が遅れている。ある時を境にそれまでの技術がガラッと変わってしまうことを「技術的特異点」というが(例えば、固定電話から携帯電話への転換)、電気自動車への転換もその一つである。今、電気スタンドなどのインフラ整備をしないと日本の自動車産業は大変な打撃を受けることになるが、安倍政権とそれを支える経産官僚も、財界も、みな無責任で、金をジャブジャブつぎ込んで産業の衰退を覆い隠しているだけだ。
- 「集中メインフレーム型」から「地域分散ネットワーク型」の経済システムへ
50年周期で産業の転換が起きる、100年周期でエネルギーの転換が起きる、と言われるが、現代はそれらが重なる、まさに歴史的な転換点にある。「資本主義」VS「社会主義」という構造は既に終焉した。これからは地域レベルの民主主義の下での経済の回し方が中心となる。新しいIT技術の性格から、これまでの重工業のような集中メインフレーム型ではなく、地域分散ネットワーク型のシステムになる。
農業も、エネルギーのシステムも、地域ごとに医療機関や介護施設なども、ネットワーク化すれば、地域で効率的に回し合い、寄り添いながら成り立つ。利用者、供給者が話し合ってシステムを作り、足りないところをネットワークで補うような社会システムである。身近なところに民主的な意思決定の場がある社会、下からの決定を積み上げていく社会が初めてできる。そのためには、産業構造だけでなく、社会システムも変えていかないといけない。各地での創造的な取り組みが求められていると思う。
以上