環境・エネルギー政策形成過程では、もっと市民の参加を
グリーン連合
共同代表 松原弘直、坂本有希、田浦健朗
担当幹事 藤村コノヱ
この夏は「レベルの違う暑さ」が全国を襲い、多くの人々の暮らしや社会経済活動に大きなダメージを与えました。それに加えて、東北や新潟などでは雨不足による渇水が続き、コメの生育や野菜や家畜の生産量が落ちるなどの影響があり、熊本や能登、東北・北海道で豪雨被害が出るなど、気候変動に伴う異常気象による被害が続出しました。こうした状況はこの数年激化しており、科学からの警告では、今後もさらに厳しい状況が長く続くことが予測されています。
また岸田前政権が原発回帰へと方針転換したことにより、再稼働や次世代型原発の新設など、あたかも福島の大惨事を忘れたかのような動きも加速しています。
さらにPFAS(有機フッ素化合物)やプラステックからの化学物質漏洩による人体への影響も科学的に立証されつつあり、世代を超えた深刻な問題になりつつあります。
このように、気候変動による被害、原発問題、化学物質による健康被害など現在の環境問題は、私たちや次世代の暮らしにも直結する深刻な問題であり、政策の影響を直接受けるのも私たち市民です。
そのため、1992年6月に開催された国連環境・開発会議(地球サミット)において全会一致で採択された「リオ宣言」の第10原則では、「環境問題は、それぞれのレベルで、関心のあるすべての市民が参加することにより最も適切に扱われる。」と明記されており、実際にこの原則を条約にした「オーフス条約」のもと、世界の多くの国で、意思決定における公衆参画などの権利が保証されています。(残念ながら日本は締約国になっていません。)
しかし、わが国では、従来から環境・エネルギー分野の多くの政策が、政府と特定の専門家・業界関係者により決定され、政策の効果も定かではない状況が続いています。そのため、私たち市民団体は、偏った政策形成過程の改善と、真の市民参加の必要性について要望を重ねてきましたが、残念ながら、現在に至っても、この分野における政策形成過程への市民の参加は不十分な状況にあり、特に最近はその傾向に拍車がかかっているようです。
その一例として、今年策定された第7次エネルギー基本計画では、政策形成に関わる審議会や分科会の委員の多くが産業界寄りであり、エネルギーと表裏一体である気候変動が主要課題であるにもかかわらず、環境団体を代表する委員はごく少数であり、その後行われたパブリックコメントでも、過去にない多数の意見が市民から提出されてにもかかわらず、それが政策に反映されることはありませんでした。
多くの市民が環境やエネルギー、食糧や健康など、自分たちに身近な政策がつくられる過程で意見を述べることは、議論の公正さや透明性を増すだけでなく、政策の選択肢が増え政策の質が向上する、当事者意識が高まりより実効性ある政策が立案され易くなる、政治教育や環境教育の有効な場になるなど多くのメリットがあります。
にもかかわらず、わが国では、この分野における政策形成過程への市民参加は限定的であり、『環境教育等による環境保全の取組の促進に関する法律』に努力義務が書かれているものの、法的にも、実態においても、まったく不十分な状況が続いており、国際社会の一員として恥ずべき状況にあります。
少なくとも先進国においては確立されたルールに反することなく、民主主義国家として、「環境・エネルギー政策形成過程への市民参加」の現状を改善し、新たな仕組みづくりを早急に進めることを強く求めるものです。
【参考】
〇1992年6月にリオで開催された「国連環境・開発会議」(地球サミット)において全会一致で採択された「リオ宣言」の第10原則
『環境問題は、それぞれのレベルで、関心のあるすべての市民が参加することにより最も適切に扱われる。国内レベルでは、各個人が、有害物質や地域社会における活動の情報を含め、公共機関が有している環境関連情報を適切に入手し、そして、意思決定過程に参加する機会を有しなくてはならない。各国は、情報を広く行き渡らせることにより、国民の啓発と参加を促進し、かつ奨励しなくてはならない。賠償、救済を含む手法及び行政手続きへの効果的なアクセスが与えられなければならない。』
〇「オーフス条約」(正式名称:環境問題における情報アクセス、意思決定への市民参加及び司法へのアクセスに関する条約」)の第1 条 目的
『現在及び将来の世代のすべての人々が、健康と福利に適した環境のもとで生きる権利の 保護に貢献するため、締約国はこの条約の規定にしたがって、環境に関する、情報への アクセス、意思決定における公衆参画、司法へのアクセスへの権利を保証する。』
〇「環境教育等による環境保全の取組の促進に関する法律」 (政策形成への民意の反映等) 第二十一条の二
国及び地方公共団体は、環境保全活動、環境保全の意欲の増 進及び環境教育並びに協働取組に関する政策形成に民意を反映させるため、政策形成に関する情報を積極的に公表するとともに、国民、民間団体等その他の多様な主体の意見を求め、これを十分考慮した上で政策形成を行う仕組みの整備及び活用を図るよう努めるものとする。
2 国民、民間団体等は、前項に規定する政策形成に資するよう、国又は地方 公共団体に対して、政策に関する提案をすることができる。
