第六次環境基本計画案に対する意見「環境政策にもっと市民の意見の反映を!」

グリーン連合では、第六次環境基本計画案の意見募集(パブコメ)に対して以下の意見を公表し、提出します。

環境政策にもっと市民の意見の反映を!

グリーン連合
2024年4月9日

環境やエネルギーに係る政策は、私たち市民の暮らしに直結する政策です。そのため、1992年6月に開催された国連環境・開発会議(地球サミット)において全会一致で採択された「リオ宣言」の第10原則には、「環境問題は、それぞれのレベルで、関心のあるすべての市民が参加することにより最も適切に扱われる。」旨明記されています。

また、この原則を条約にした「オーフス条約」では、環境に関する情報へのアクセス、意思決定における市民参画、司法へのアクセスへの権利が保証されています。(残念ながら日本はいまだに締約国になっていません。)

にもかかわらず、わが国では、従来から環境やエネルギー分野の多くの政策が、政府と特定の専門家・業界関係者により決定されてきた経緯があることから、私たち市民団体は、偏った政策形成過程の改善と、真の市民参画の必要性について要望を重ねてきました。

しかし、わが国では「参加」が権利であるという認識が希薄なことから、この分野における政策形成過程への市民の関与はいまだ不十分な状況にあり、特に最近はその傾向に拍車がかかり、環境政策の停滞を招いています。

その一例として、市民参加の進むEUでは、温室効果ガスの域内排出を2040年までに1990年比で90%削減することを発表するなど、世界は脱炭素に向けた動きを加速しています。しかし、パリ協定と整合性のない日本政府の現在の削減目標は、今後も国際的批判を浴び続けるだけでなく、地方自治体や企業、市民社会に対して間違ったメッセージを送ることとなり、その取組を大幅に遅らせ、気候危機を止めることを不可能にします。これは正しい情報が提供されていない一例です。

また、電力自由化の中でも電力市場を寡占している大手電力会社が持つ既設の原発や石炭火力発電所を維持するために、国民が知らない間に、政府と関係者の間だけで議論が進み、気候変動に逆行するような様々なエネルギー政策が決定されてきています。これは適切な市民の参画が行われていない一例です。

気候変動や原発を含むエネルギー、化学物質やプラスチック問題などは、すべて私たち市民の暮らしと密接に関わる問題であり、政策の影響を直接受けるのも私たち市民です。また現場での異変をいち早く察知できるのも私たち市民です。

そうした現場からの情報をもとに政策形成過程に市民が参加することで、政策の信頼性は増し、提案が多様化することでより良い政策の選択の幅が広がるだけでなく、政策の普及・実施段階での協力も得やすくなり、実効性が高まることも期待できます。

にもかかわらず、現在議論が進められている第六次環境基本計画案の中でも「政策決定過程への国民参画とそのための政策コミュニケーション、その成果の可視化が必要」(p.46)とし、その際の情報手段については書かれているものの、「自主的・積極的な活動を」(p.46)ということで、政策形成過程への市民の参加の仕組みについては全く触れられていません。またこれまでの環境政策でその成果の可視化がされたことはほとんどない中で、また政策の成果が出るには長い時間がかかる中で、どう成果を可視化していくのか不明です。

このように、環境政策形成過程での市民参画やそのための情報アクセスが不十分である状況は、国際社会の一員である日本として恥ずべき実態であり、少なくとも先進国において確立されたルールにも反することから、早急の改善を強く求めるものであり、少なくとも、今回の環境基本計画では、その仕組みについて明記することを期待します。

【参考】

〇1992年6月にリオで開催された「国連環境・開発会議」(地球サミット)において全会一致で採択された「リオ宣言」の第10原則

『環境問題は、それぞれのレベルで、関心のあるすべての市民が参加することにより最も適切に扱われる。国内レベルでは、各個人が、有害物質や地域社会における活動の情報を含め、公共機関が有している環境関連情報を適切に入手し、そして、意思決定過程に参加する機会を有しなくてはならない。各国は、情報を広く行き渡らせることにより、国民の啓発と参加を促進し、かつ奨励しなくてはならない。賠償、救済を含む手法及び行政手続きへの効果的なアクセスが与えられなければならない。』

〇「オーフス条約」(正式名称:環境問題における情報アクセス、意思決定への市民参加及び司法へのアクセスに関する条約」)の第1 目的

『現在及び将来の世代のすべての人々が、健康と福利に適した環境のもとで生きる権利の 保護に貢献するため、締約国はこの条約の規定にしたがって、環境に関する、情報への アクセス、意思決定における公衆参画、司法へのアクセスへの権利を保証する。』

【意見書】第6次エネルギー基本計画(案)への意見

第6次エネルギー基本計画(案)への意見

2021年10月1日

グリーン連合 共同代表 藤村コノヱ、中下裕子、杦本育生
幹事 松原弘直、桃井貴子、坂本有希

  • 再生可能エネルギー100%を目標に2050年カーボンニュートラルを目指すこと

 2030年には原発ゼロ、石炭ゼロで再生可能エネルギー電源50%以上を目標とし、CO2(二酸化炭素)排出量も60%削減を目指す必要がある。さらに2050年には全エネルギー消費量に対して再生可能エネルギー100%社会を実現することで、カーボンニュートラルを目指す。欧州では、すでに再生可能電源の割合が平均40%に達しており、2030年には60%程度を目指している。さらに、再生可能エネルギー100%を目指す国もあり、日本でも再生可能エネルギー100%の目標を掲げ、明確なロードマップを策定する必要がある。

 火力発電を2050年までに脱炭素化しようとする水素・アンモニアあるいはCCUS(二酸化炭素回収・有効利用・貯留)などの技術は現実性に乏しく、コストも非常に高く、脱炭素化のソリューションとすべきではない。

  • 全ての原子力発電所を廃止し、脱炭素電源は再生可能エネルギーだけにすること

 東京電力福島第一原子力発電所事故に踏まえれば原発のリスクは回避が困難で、損害賠償制度も現実には成立せず、社会的にも経済的にも安全性を確保することは不可能である。使用済核燃料や放射性廃棄物の処理の問題も解決は困難であり、2030年より早期の原発ゼロを前提とすべきである。

 3.11以降、原発の発電電力量は一旦ゼロ(2014年度)となり、2020年度の発電電力量は4%未満で、東日本の原発は未だに稼働ゼロの状況にある。政府および原子力事業者は、福島第一原発事故から10年が経過した現在も、いまだに「安全神話」に陥ったままであり、国民の信頼が損なわれている中で、原発の再稼働など進めるべきではない。またすでに稼働している原発についても安全を再優先するためには停止するしかない。こうしたことを踏まえて、全ての原発の廃止措置を政府と原子力事業者が責任をもって、適切に進めるべきである。

  • 2030年までに石炭火力は全廃し、LNG火力も新規建設禁止とすること

 気候危機を回避するためには、2020年以降の石炭火力の新設を禁止するとともに、既存の石炭火力を2030年までに段階的全廃(フェーズアウト)する必要がある。2030年に電源構成のうち石炭火力
を19%も残す政府案は、温室効果ガスの削減目標である2030年46~50%削減、2050年実質ゼロの実現にも水を差すものである。また、LNG(液化天然ガス)であっても新たに化石燃料の火力発電所を稼働することは気候を悪化させることにつながるため、禁止すべきである。

  • 省エネルギーを大原則とし、ライフスタイルの見直しやエネルギーシステムの根本的な改革に取り組むこと

 脱炭素社会に向けては省エネを大原則とし、当面の2030年に向けて電力需要を3割以上削減し、再生可能エネルギーによる電化を進めながらエネルギー消費量全体を4割削減することを目指す必要がある。

 そのためには、エネルギー消費の少ない健康で心豊かなライフスタイルへの転換、建築物の省エネ化、歩いて移動できる脱炭素型のまちづくりや公共交通インフラ整備など、これまでとは異なる暮らしや社会の構築が不可欠である。そしてそれらを促進するために、先端技術だけに頼るのではなく、既存の脱炭素型技術の活用と合わせて、私たちの価値観の転換を促す教育、省エネルギーを促進する研究、エネルギーシステムそのものの抜本的見直し、カーボンプライシングなど経済的政策の導入など、あらゆる手段を講じるべきである。そしてすべての暮らしと、それを支える社会経済活動の基盤である環境を主軸に置いた、持続可能なエネルギー政策とそのためのロードマップを明確に示すべきである

  • 民意を反映した市民参加の政策決定プロセスを制度として確立すること

 環境・エネルギーに係る政策は、私たち市民の暮らしに直結する政策である。そのため、地球サミットで採択された「リオ宣言」(1992年6月)の第10原則には、「環境問題は、それぞれのレベルで、関心のあるすべての市民が参加することにより最も適切に扱われる。」旨明記されている。さらにこの原則を条約にした「オーフス条約」(日本は未批准)では、環境に関する情報へのアクセス、意思決定における公衆参画、司法へのアクセスへの権利が保証されるなど、市民参加の重要性は国際的にも認識されている。

 しかし、日本では、エネルギー基本計画を審議する総合資源エネルギー調査会基本政策分科会の委員の多くが産業界寄りであり、エネルギーと表裏一体である気候変動が主要課題といっても過言ではない中、環境団体を代表する委員は加わっていない。このような政策決定プロセスでは、世界的な課題である気候変動問題の根本的な解決や脱炭素社会に向けた政策が議論されないまま、従来型のエネルギーありきの議論に終始してしまい、再び国際社会から強く批判される環境・エネルギー政策になりかねない。

 気候変動やエネルギーに係る政策の影響をもろに受けるのも私たち市民だが、その政策決定過程への市民の参画やそのための情報アクセスが不十分な現況は、国際社会の一員である日本として恥ずべき実態であり、国際ルールにも反するものである。そうしたことから、早急に環境・エネルギー政策決定プロセスにおける市民参加を制度として導入すべきである。

以上

【意見書】福島第一原発ALPS等処理水(汚染水)の海洋放出に強く反対します

意見書

2021年7月1日
グリーン連合
共同代表 藤村コノヱ、中下裕子、杦本育生

菅義偉政権は、4月13日、「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」「地元関係者の理解を得ながら対策を実施することとし、海洋への安易な放出は行わない」旨のこれまでの地元関係者と東京電力、経産省間の約束文書を反故にして、福島第一原発で発生しているALPS等処理水(以下、「汚染水」という)の海洋放出を閣議決定しました。これに対し、福島県漁協連をはじめ、同農協中央会、同森林組合連、同生協連、地産地消ふくしまネットの5団体は、4月30日、意思決定プロセスへの遺憾の意を表するとともに、海洋放出に反対する旨の共同声明を発表しました。また、原子力資料情報室、原子力市民委員会、FoEジャパン、グリーンピースジャパンなどの市民団体からも反対の意見が発表され、さらに韓国、中国など周辺の国々からも反対の声が上がっています。

 日本の環境団体の連合組織であるグリーン連合も、上記の非民主的な意思決定プロセスに加え、以下の理由により、汚染水の海洋放出に強く反対します。

1. 汚染水にはトリチウムの他にも有害な放射性物質が基準を超えて含まれていること

 政府は、トリチウムの安全性を強調している。しかし、汚染水には、通常の原発からの排水と異なり、トリチウムのみならず、ヨウ素129、ルテニウム106、ストロンチウム90などの放射性物質が基準を超えて残存していることが明らかになっている。タンクに貯められている水の約7割で、トリチウム以外の62の放射性核種の濃度が全体として排出基準を上回っており、最大で基準の2万倍になっている。政府は基準に適合するように2次処理をした上で希釈して放出するとしているが、処理・希釈しても62核種が排出されることは変わらず、これにより、海洋を汚染し、食物連鎖を介して人の健康や生態系に悪影響を及ぼす恐れがあることは否定できない。

 また、トリチウムについても、安全性について懸念を表する専門家もおり、決して安全性が保証されている訳ではない。しかも、希釈しても排出総量(約2000兆ベクレル)は変わらず、年間22兆ベクレルの放出量は事故前の放出量(年間1.5~2.5兆ベクレル)の約10倍である。それが数十年にわたって続けば海洋生態系に及ぼす影響は無視できる量ではない。

2. 海洋放出の前に汚染水を止水すべきであること

 汚染水が増え続けている原因は、メルトダウンした燃料が落下した原子炉建屋地下への地下水流入が続いていることにある。この点については、2013年当時、山側に遮水板を設置する案が強力に主張されたにもかかわらず、新技術なら国費345億円が使えるという理由で凍土壁案を採用、しかし結果的には完全な遮水はできず、汚染水が増え続けるという現状を招いており、明らかに政策の失敗と言わざるを得ない。

 そのことを放置したまま、他の止水策を講じることなく、海洋放出を行うことは、到底、関係者や国民、さらには国際世論を納得させることができない。速やかに、失策の経過を検証するとともに、遮水壁を設置することにより汚染水の更なる発生を防止し、海洋放出を回避すべきである。

3. 人類共有の財産である海洋の汚染を防止し、豊かな海洋と海洋資源を守ることは国際社会における日本の責任

 近年、海洋環境の保全は、国際環境問題における重要なテーマのひとつとなっており、ロンドン条約、国連海洋法、さらにはSDGsの目標14にも、そのことが明記されている。

 福島第一原発事故の責任は国・東電にあり、それによる汚染問題は汚染国の国内において処理すべきであって、海洋放出により世界中の人々の共有財産である「豊かな海」を汚すことは許されない。

 以上のとおり、国は、海洋放出の方針をすみやかに撤回し、まず汚染水を止水したうえで、国内管理策に関して、地域住民を含む様々なステークホルダー参加の下で決定すべきです。

以上

【意見書】「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律案」に対する意見書の提出について

「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律案」に対する意見書の提出について

意見書(PDF)

グリーン連合
共同代表 杦 本 育 生
同    藤 村 コノヱ
同    中 下 裕 子

2021(令和3)年3月、「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律案」(以下「本法案」という)が内閣から提出され、今国会での成立が目指されている。

プラスチック廃棄物問題については、海洋プラスチック汚染の深刻化により国際的課題として取組みがなされ、2019年6月のG20大阪ブルー・オーシャン・ビジョンでは「2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的汚染をゼロにまで削減する」との目標が明記された。

一方、2020年10月には日本でも「2050年カーボンニュートラル(脱炭素)宣言」がなされたことから、石油由来のプラスチックについても、脱炭素の観点からの取組みが求められる。

このような状況において、プラスチック問題の解決については、単に廃棄物管理の強化にとどまらず、「2050年カーボンニュートラル」への貢献も含め、プラスチックの大幅な総量削減と3Rの優先順位に従った循環利用の徹底を通じて、サーキュラー・エコノミー社会を早期に構築していくことが求められており、そのためには、大胆な施策を段階的・計画的、かつ着実に実施していく必要がある。

しかしながら、本法案では、2050年までの中間の年次における削減の数値目標が明記されておらず、規制的措置やカーボンプライシング等の経済的手法も含まれていない単なる促進法にとどまっており、極めて不十分である。

「グリーン連合」は、日本が2019年G20議長国として率先してサーキュラー・エコノミー社会を実現するために、本法案に下記内容を盛り込むことを提言する。

① 2050年石油由来のバージンプラスチックの製造ゼロを目指して、市民参加の下に、バックキャスティング手法により目標年次を定めてプラスチックの総量削減に取り組むこと。

② 事業者の自主的取組みだけでなく、生産者よる回収義務をはじめとする生産者の責任の強化、有害化学物質管理などの規制的手法や、カーボンプライシングの導入などの効果的な措置を講じること。

③ リデュース・リユース・リサイクル・熱回収の比率についての年次目標を、3Rの優先順位に従った形で明確化すること。

④ 2030年使い捨てプラスチックゼロを目標として掲げ、その実現のために、拡大生産者責任を徹底し、製造や提供を禁止するなどして計画的に削減を進めること。

⑤ マイクロカプセルを含めてマイクロプラスチックの意図的製造を禁止するとともに、漁具の回収を義務化するなど効果的な流出防止策を講じること。

以上