環境・エネルギー政策にもっと市民の意見の反映を
2020年10月23日
「グリーン連合」共同代表
藤村コノヱ、杦本育生、中下裕子
環境・エネルギーに係る政策は、私たち市民の暮らしに直結する政策です。そのため、1992年6月に開催された国連環境・開発会議(地球サミット)において全会一致で採択された「リオ宣言」の第10原則には、「環境問題は、それぞれのレベルで、関心のあるすべての市民が参加することにより最も適切に扱われる。」旨明記されています。
また、この原則を条約にした「オーフス条約」では、環境に関する情報へのアクセス、意思決定における公衆参画、司法へのアクセスへの権利が保証されています。(残念ながら日本は締約国になっていません。)
にもかかわらず、わが国では、従来から環境・エネルギー分野の多くの政策が、政府と特定の専門家・業界関係者により決定されてきた経緯があることから、私たち市民団体は、偏った政策形成過程の改善と、真の市民参画の必要性について要望を重ねてきました。
しかし、この分野における政策決定過程への市民の関与はいまだ不十分な状況にあり、特に最近はその傾向に拍車がかかっているようです。
例えば、福島原発事故に伴う汚染水処理について、経済産業省「多核種除去設備等処理水の取扱に関する小委員会」がまとめた報告書(今年2月)で、海洋放出案が「現実的な選択肢である」と結論づけて以来、政府は、直接、一般市民を対象とした説明会や公聴会は行わず、政府側が選んだ「関係団体」からのみ、きわめて形式的な聴き取りを行うだけです。
また、電力自由化の中でも電力市場を寡占している大手電力会社が持つ既設の原発や石炭火力発電所を維持するために、国民から新たに費用を取り立てようとする「容量市場」を始め、「非化石価値取引市場」など新たな電力市場の問題が浮上しています。この他にも電力自由化の中で国民が知らない間に、電気料金の一部である託送料金の中に福島第一原発事故の賠償負担金や不足している原発の廃炉円滑化負担金などが含まれるなど、政府と関係者の間だけで議論が進み、様々なエネルギー政策が決定されてきています。
さらに現在議論が進められている第6次エネルギー基本計画についても、議論の中心となる総合資源エネルギー調査会基本政策分科会の委員の多くが産業界寄りであり、エネルギーと表裏一体である気候変動が主要課題といっても過言ではない中、環境団体を代表する委員は加わっていません。これでは世界的な課題である気候変動問題の根本的な解決や脱炭素社会に向けた政策ではなく、従来型のエネルギーありきの議論に終始してしまい、再び国際社会から強く批判される環境・エネルギー政策になりかねません。
気候変動やエネルギーなどは、すべて私たちの暮らしと密接に関わる問題であり、政策の影響をもろに受けるのも私たち市民です。
にもかかわらず、その政策決定過程への市民の参画やそのための情報アクセスが不十分である状況は、国際社会の一員である日本として恥ずべき実態であり、少なくとも先進国においては確立されたルールにも反することから、早急の改善を強く求めるものです。
【参考】
〇1992年6月にリオで開催された「国連環境・開発会議」(地球サミット)において全会一致で採択された「リオ宣言」の第10原則
『環境問題は、それぞれのレベルで、関心のあるすべての市民が参加することにより最も適切に扱われる。国内レベルでは、各個人が、有害物質や地域社会における活動の情報を含め、公共機関が有している環境関連情報を適切に入手し、そして、意思決定過程に参加する機会を有しなくてはならない。各国は、情報を広く行き渡らせることにより、国民の啓発と参加を促進し、かつ奨励しなくてはならない。賠償、救済を含む手法及び行政手続きへの効果的なアクセスが与えられなければならない。』
〇「オーフス条約」(正式名称:環境問題における情報アクセス、意思決定への市民参加及び司法へのアクセスに関する条約」)の第1 条 目的
『現在及び将来の世代のすべての人々が、健康と福利に適した環境のもとで生きる権利の 保護に貢献するため、締約国はこの条約の規定にしたがって、環境に関する、情報への アクセス、意思決定における公衆参画、司法へのアクセスへの権利を保証する。』